第1回 : 情熱を持って仕事をしているか?

前刀禎明(さきとうよしあき)さん
株式会社リアルディア 代表取締役社長
1958年生まれ

ソニーやディズニー、AOLジャパンなど、時代の中心にあった数々の大手企業で手腕を振るい、2004年にアップルコンピュータ米国本社副社長 兼 日本法人代表取締役に就任。今では誰もが知っている「iPod」を日本に浸透させた。現在は、人の持つ感性を引き出し創造力や表現力を豊かにすることで、多様な価値観に対応できる人材の創出を目指す企業リアルディアを立ち上げ、代表取締役社長を務める。

同社は、前刀さんが20年以上前から構想を練っていた事業を展開しており、感性・創造力・表現力を育む教育・自主学習プログラムの開発などを手がけている。モノと表情を結びつけて感性を磨くアプリ「FACE」や就活生向けの働きかた講座「TERAKOYA」は前刀さんの哲学がカタチになっていると言えるだろう。

■ そのほか活動歴
・フジテレビ系列「めざましテレビ」にレギュラー出演、話題のニュースを独自視点で分析するコーナー「さきつぶ」を担当
・アスコムから著書「僕は、だれの真似もしない」を出版
・大和書房から著書「人を感動させる仕事 ~僕がソニー、ディズニー、アップルで学んだこと~」を出版

1. 前刀さんにとって“仕事”とはどのようなものなのでしょうか?

僕が仕事を選ぶ基準は三つです。一つ目は、情熱を燃やすことができるか? そして、その仕事が心の底から好きになれるか? 最後にその仕事を選んで道を進んでいる自分に自信を持てるか? これらを満たしていなければいくら給料が良くても選ぶべきではありません。

つまりは「自分がどう思っているか」が重要なんです。例えば、家電を購入する時、店員さんに「どれが売れていますか?」と聞いてしまいませんか? 自分が何を欲しいと思っているのかではなく、人がどう思っているかを重視してしまう。自分が何を欲しがっているのかわかっていれば、必要のない質問ですよね。“仕事”も同じなんです。

自分の価値基準を持っていないが「何歳になったらこうあるべき」と常識的なイメージだけは持っている。「教えて貰うこと」、「人に決めて貰うこと」に慣れている人が陥りがちな感覚ですが、その仕事に就いて周りがどう思ってくれるかが大事で、「自分がどう思っているか」、「自分が何をやりたいのか」を大事にしていない。他人の価値観に頼っている限り、誰かが発したたった一言でも「認められていない」と感じてしまい本気で打ち込めなくなってしまいます。

リアルディアで行っている就活生向けの「TERAKOYA」では、就職する前に“働く姿勢”“働く感覚”を教えています。従来の就活支援セミナーでは、就活が有利に進む条件の集めかたを教えてくれます。入社がゴールであれば効果はありますが入社はスタート。入社後、仕事に熱意や情熱を持って取り組めるかどうかが重要ではないでしょうか。自分らしく働き、自分らしく生きるために本質的な力が大切です。

2. 前刀さんが一緒に働きたいと考えるエンジニアとは?

相手のために自分の技術がどう役立つのかを常に考えて欲しいと思っています。「僕は○○や××が出来ます」ではなく、その技術で僕が考えているアイデアをどうカタチにしてくれるのかが重要。アプリを使うのは自分ではなくユーザーです。ユーザーが利用していて、もしも違和感を覚えた時、高度な技術を使っていることを説明しても価値は伝わりません。

僕は「動きが心地よくない」とか「インターフェースが面白くない」とか、感覚的に指示を出しますので、エンジニアは苦しいと思います。しかし、「心地よくない」「面白くない」はユーザーや自分自身にも備わっている感覚ですよね。自分が持っている“感覚”に正直になり技術を使って価値を創ることで、ユーザーが感じる違和感も減らせるのではないでしょうか。

サウンドエンジニアに「もっと丸い感じ」と伝えたこともあります。音の話をしているのに「高い低い」や「大きく小さく」ではなく「丸く」と頼む。エンジニアにはどうすれば音が「丸い感じ」になるか想像して仕事を楽しんで欲しい。ただ、音の調整をするだけの“作業”ではなく、独創性を盛り込んだ “仕事”をしていただきたい。

当社のテクニカルプロデューサー桑島は、ときどき夢の中に私が出てくるそうです(笑)。私はアイデアを時間関係なく、思いつくたびに改善や新機能追加を要求しますし、決して妥協もしません。しかし、桑島は自分がやりたいことをはっきり持っており、感覚的な指示を自分で解釈し技術を使ってカタチにしてくれます。難しい課題に挑戦することに喜びを感じるタイプで、どんな課題に対しても無理だとは言いません。

“技術”を誰かのアイデアをカタチにするためだけに使っていては仕事は面白くなくなります。誰かのアイデアに自分自身のアイデアも盛り込み、カタチにするために技術を使っている、その実感を積み重ねていくことで、桑島のように難しい課題すらも楽しみに変えて、仕事に臨めるのではないでしょうか。

3. 【転職を決める三つの要素】前刀さんが“転職”を考えるときの理由を三つ挙げていただけますか?

① 新たにやりたいことが見つかった

② 自分の会社の中で、やってきたと達成感を得られた

③ 新たな目標にチャレンジしたい

僕はこう見えてナマケモノなので、前向きの姿勢を保つため、環境を変えて、常に厳しい環境に追い込まないないといけません(笑)。ネガティブな理由の転職は上手くいかないものです。ポジティブな理由で転職すべき。将来に不安を抱いて転職を考えるかたもいらっしゃると思いますが、自分自身が「周りがどう思うか」を基準に仕事を選んでいたら、いつまでも不安が付き纏うことに気付くべきです。

松下幸之助さんは著書で「成功した時は運が良い。失敗した時は自分に何かがあったと考えなさい。」と仰っています。全ての結果は自分が過去に積み上げた行動の結果です。過去が自分の責任なら未来も自分の責任、言い換えれば未来は自分次第で自由に選べるとも言えませんか? 例え難しい案件、不条理な仕事を任せられたからと言っても、「自分一人の力ではどうしようもない」ことは絶対にありません。「実現するにはどうしたら良いかわからない」が正しいです。責任を誰かに押し付けている限り、自分で未来を描くことは出来ないのです。

自分自身が情熱を持って仕事に取り組んでいれば、必ず達成感を得られるハズです。達成感を身につけ、自分に価値を見出せるのであれば、必ず会社が必要としてくれる人材になっています。もしも会社が自分の価値を見出してくれないのであれば、その会社を見抜けなかった自分が悪いと考えるべきです。「自分が悪い」と考えれば、ネガティブな理由は自然と出て来なくなりませんか?

「人間関係」が転職の理由だった場合も同じです。周りが自然に合わせてくれることを待ったり、振り回されたりするのではなく、自分から周囲に影響を与え、周りが合わせてくれるよう状況をつくりだすくらいでないと難しいです。道を示してくれる人はいないと意識し、自ら道を見出す。それが転職はもちろん、仕事にも良い結果を生む土壌になるのではないでしょうか。転職は逃げ道ではなく、自分が“選ぶ道”なんです。

4. 最後に"自分独自の基準"を手に入れる方法を教えていただけますか?

リアルディアで提供しているアプリ「FACE」は、日常生活の中で、感性を磨くことができるプラットフォーム。誰かと共有したくなる場面やモノと出会った、その瞬間の表情を一緒に撮影して共有することで「この瞬間にこの人はこんな表情をしていたんだ」と自分で感じたことを自分の感性で表現できます。

また、私が経験したディズニーやアップルが追求する質感、クオリティへの拘りも盛り込み、インターフェースは直感性や美しさを重視しています。写真を通して “体験”と“感動”を共有して欲しい、そして私たちの“拘り”も実感していただきたいと考えています。

本アプリは、工夫次第で次に語る5つの“力”を刺激し、「クリエイティブ・インテリジェンス(創造的知性)」を養うことも可能です。

① 観察力
目の前にあるものや課題を徹底的に見て、固定観念を捨て、核心を見極めていく力

② 質問力
これがこうだったらどうなるのか、あらゆる可能性について考え、好奇心を持って徹底的に掘り下げていく力

③ 実験力
自分の考えを実際に試してみる、机上の空論のままで終わらせず、実践で確かめる力

④ ネットワーク力
自分とは違う価値観や考えの人と意見を交わし、自分の考えをブラッシュアップしていく力

⑤ 関連づける力
①から④で得られた全てのことを関連づけ、創造的に結びつけていく力

例えば、マグカップに取っ手は必要でしょうか? 無くしてみたら何が起きるのか。「取っ手がなかったら熱い飲み物を飲むときに、手も熱くなる」、その通りですが、取っ手のないマグカップを掴んでも熱くならないようにするには、どうすればいいのか?常識に捕われず、考えてみましょう。

現在あるものから何かを引いて自分のイマジネーションを追加し、新しい価値を生み出す。私は「−1+i(マイナス1プラスimagination)」と呼んでいます。今まで当たり前に存在したものを敢えて取り払ってみると新しい価値が見出せたり、可能性に気付いたりできます。「FACE」は、従来の画像共有アプリと違い、「いいね!」やフォローのような機能を設けていません。必須だと思われる要素を敢えて入れないで自分の想像力を盛り込んだことで、個人の特定が難しくなり気軽に自分の顔をアップロードする「新しい価値」が提供できたんです。

前述した5要素を習慣付けていれば、「セレンリビティ」、モノを開発して行く中で別の何かに偶然出会う価値を感じ取り、受け入れることができます。今までは誰かに敷いて貰っていたレールの上を進んできてしまったかもしれません。しかし、自分でレールをクリエイトしなければ、必ず「将来の不安」は残ります。仕事で達成感を得ることもアイデアを周りに理解して貰うこともできず、別の仕事、つまりは逃げ道を探してしまうかもしれません。

常に変化する多様な価値観を、素直に受け止め、自分の基準で判断する。この姿勢を崩さないことが、仕事はもちろん、人生においても重要ではないでしょうか。自分の人生は、自分で切り開くのです。「明日の自分には無限の可能性がある」

前刀さんの最近のお仕事、著書など

ビジネス、プライベート共に役立つクリエイティブ思考の養いかたがわかる、前刀さん初の著書。

「仕事にワクワクを」、クリエイティブを盛り込み、“仕事”を楽しんでいる前刀さんが描く二冊目となる新著。

前刀さんがプロデュースした写真を使って”五感“を刺激するソーシャルアプリ「FACE」。価格は500円。

こちらは機能を絞った「FACE Lite(無料版)」。

Text by Yuzuru Yamakawa, Image by Yusuke Sugimori(apart-apart inc.)